世紀の料理人 ジョエル ロブション氏

2018年8月6日、世紀の料理人ジョエル ロブション氏がこの世を去られた。
サービスマンである私にとってもロブション氏はフランス料理の神様である。

私は以前、恵比寿のタイユバン ロブションに勤めていた。8年半もの間在籍していたがロブション氏との思い出と言えるエピソードはたったの2つ。それでも私には十分で、自慢の出来事だった。

ある日、朝の準備の為にダイニングでテーブルクロスにアイロンをかけていると、そこに普段はとりまきの多いロブション氏が珍しくお1人で入って来られた。そしておもむろに被っていたトックを脱ぎ、私のトックにもアイロンをかけてくれてと手渡された。私はロブション氏のトックにアイロンをかけたのだった。

また別のある日。
その日は年に何回かしか行われないロブション氏来日ガラディナーで、メイン料理はリエーブルアラロワイヤルであった。ロブション氏はその日サービスの途中でこのメイン料理はおかわりを出すとおっしゃった。おかわりする時はメートルドテルが直接キッチンへ注文することになっており、当時メートルドテルであった私は、当然担当の8テーブル全てのお客様におかわりをおすすめし、ほぼ全員がご希望された。

私は何度もキッチンへ足を運んだ。しかしその度にロブション氏は怪訝そうな顔をされており、5回目くらいで「どうして君ばかり来るのだ、君の名前は?」と。私は自分の名前と、お客様が皆感動していることを告げた。すると、その後からはキッチンへ行く度ロブション氏がニコニコしながら「おお、TANAKAまた来たな。」と迎えてくれた。TANAKA、TANAKAと何度も名前を呼ばれた。
私は、この日だけロブション氏に顔を覚えられ何度も名前を呼ばれたのであった。

タイユバン ロブションという、故ジャン クロード ヴリナ氏とジョエル ロブション氏による10年間しか存在しなかった夢のレストランで仕事できたことは私の輝きである。

ジョエル ロブション氏はフランス料理の神様である。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

タイユバン ロブションを退職後にもらった当時のメニュー。レストランの象徴ともいえるジャン クロード ヴリナ氏とジョエル ロブション氏の直筆コメント入り。